「熱設計 とは何だろう」「熱設計エンジニアはどんな仕事をしているのか」と気になって検索した方も多いのではないでしょうか。機構設計や回路設計の経験者が、次のキャリアとして熱設計に関心を持つケースも増えています。
熱設計とは、電子機器や機械が発する熱を逃がし、部品や製品を許容温度内に収めるための設計です。 製品の小型化・高性能化によって発熱の密度は高まり続けています。そのため熱設計は、製品の信頼性と安全性を左右する重要な工程になっています。
この記事では、IT・機電エンジニア専門の転職エージェントである私たちが、熱設計の基礎から仕事内容、必要なスキル・資格、年収の考え方、熱設計エンジニアになる方法までを解説します。
熱設計とは
熱設計とは、発熱を「どこへ、どのように逃がすか」を設計段階で決める仕事です。目的は、温度の上昇による故障・性能低下・寿命の短縮を防ぐことにあります。
電子部品には、動作を保証できる上限温度が決められています。半導体では、ジャンクション温度(チップ内部の接合部の温度)が代表的な指標です。高温の状態が続くと、誤動作や劣化が早まるとされています。
熱の逃がし方は、大きく次の3つに分けられます。
・伝導:固体の中を熱が伝わる(基板、ヒートシンク、放熱シートなど)
・対流:空気や液体の流れで熱を運ぶ(ファン、液冷など)
・放射:物体の表面から熱を電磁波として放つ(筐体表面の処理など)
熱設計では、この3つを組み合わせて、コスト・サイズ・騒音とのバランスを取りながら最適な放熱方法を決めます。なお「熱設計」は建築分野でも断熱計画などの意味で使われますが、本記事では電子機器・機械製品の熱設計を扱います。
機構設計・回路設計との違い
熱設計は、機構設計と回路設計の間に立つ専門工程です。3つの職種の違いを整理すると、次のとおりです。
| 職種 | 主な役割 | 熱設計との関わり |
| 機構設計 | 筐体や部品の形状・構造を設計する | 通風口やヒートシンクの配置を熱設計と調整する |
| 回路設計 | 電子回路や基板を設計する | 発熱部品の選定・配置を熱設計と調整する |
| 熱設計 | 熱の流れを予測し放熱方法を決める | 両者の間に立ち温度の要件を満たす案を出す |
中小規模のメーカーでは、機構設計者が熱設計を兼務することも少なくありません。一方で、大手メーカーや半導体・車載分野では、熱設計を専任の職種として置いている企業も見られます。
熱設計の仕事内容【工程別】
熱設計の仕事は、「要件整理→熱解析→対策設計→試作評価→量産対応」の流れで進みます。 製品開発の上流から下流まで、幅広く関わるのが特徴です。
| 工程 | 主な役割 | 主に関わる相手 |
| 要件整理 | 消費電力・使用環境・許容温度を確認する | 企画、回路設計 |
| 熱解析 | 熱流体解析で温度分布を予測する | 機構設計 |
| 対策設計 | 放熱部品・風の通り道・部品配置を検討する | 機構設計、回路設計 |
| 試作評価 | 実機で温度を測り解析結果と比べる | 評価部門 |
| 量産対応 | 不具合の原因調査や設計変更に対応する | 品質保証、製造 |
要件整理
最初に、部品ごとの消費電力や製品の使用環境を確認します。屋外で使う機器なのか、密閉された筐体なのかによって、必要な対策は大きく変わります。
熱解析
熱流体解析(CFD:コンピューター上で熱と空気の流れを計算する手法)を使い、製品内部の温度分布を予測します。どこまで形状を簡略化してモデルを作るかの判断に、経験が表れる工程です。
対策設計
解析結果をもとに、ヒートシンクやファン、ヒートパイプ(内部の液体の蒸発と凝縮で熱を運ぶ部品)などの放熱手段を検討します。基板の銅箔の面積や、発熱部品の配置変更を提案することもあります。
試作評価
試作機に熱電対(温度を測るセンサー)を取り付けたり、サーモグラフィで表面温度を確認したりして、実際の温度を測定します。解析とのずれを分析し、次の設計に反映させます。
量産対応
量産後に市場で温度に関する不具合が起きた場合は、原因の調査と対策を担当します。部品の変更やコストダウンの際に、温度への影響を確認するのも大切な役割です。
熱設計の種類
熱設計は、対象となる製品によって求められる知識が異なります。代表的な4つの分野を紹介します。
電子機器・基板の熱設計
パソコン、通信機器、産業機器などの筐体と基板が対象です。限られた空間で、ファンの風量や騒音と放熱性能のバランスを取ることが求められます。
半導体パッケージの熱設計
半導体チップを包むパッケージの内部構造や材料を検討し、チップの熱を外へ逃がしやすくします。材料の熱特性に関する深い知識が必要になる分野です。
車載機器の熱設計
電動車のインバーター(電力を変換する装置)やバッテリー、車載用の電子制御装置などが対象です。振動や高温環境に耐える設計が求められ、液体による冷却を扱う機会も多くあります。
サーバー・データセンターの冷却設計
高い処理能力を持つサーバーは発熱量が大きく、空冷に加えて液冷の導入も検討されています。機器単体だけでなく、ラックや室内全体の空気の流れまで考えるのが特徴です。
熱設計エンジニアの1日の流れ(例)
熱設計エンジニアの1日は、解析と実測、関係部署との調整を行き来するのが一般的です。メーカーで開発に携わる場合の一例を紹介します。
・9:00 メールと前日に流した解析結果の確認
・10:00 回路設計・機構設計との定例会議で、部品配置の変更点を共有
・11:00 新しい筐体形状をもとに解析モデルを作成
・13:00 解析を実行し、ファン風量などの条件を変えて比較
・15:00 評価室で試作機の温度を測定
・17:00 測定結果と解析結果の差を分析し、報告資料を作成
開発の山場では評価作業が集中し、試作スケジュールに合わせて忙しくなる時期もあります。働き方は企業や担当製品によって大きく異なります。
熱設計に必要なスキル・知識
熱設計で特に重視されるのは、解析結果を設計の判断に落とし込む力です。 ソフトを操作できるだけでなく、「なぜこの温度になるのか」を説明できることが求められます。
・伝熱工学・熱力学・流体力学の基礎知識
・熱流体解析ソフトの操作と、モデルを簡略化する判断力
・3次元CAD(コンピューター上で立体の設計図を作るツール)の読み書き
・電子部品と回路の基礎知識(消費電力の見方など)
・温度測定の実務経験(熱電対、サーモグラフィ)
・機構設計・回路設計など関係部署との調整力
相談の現場では、「解析ソフトを使った経験しかなく、熱設計の求人に応募してよいか迷っている」という声をよく聞きます。実際の選考では、解析結果をもとにどのような対策を提案したかが評価されやすい傾向があります。ソフトの名前よりも、課題・提案・結果をセットで語れるように準備しておくことが大切です。
熱設計の経験をどう活かせるか、一緒に整理してみませんか
経験豊富なアドバイザーが、これまでのキャリアを丁寧にヒアリングします。まずは情報収集の一環として話を聞いてみたいという方も歓迎です。
熱設計に役立つ資格
熱設計の仕事に、必須の資格はありません。ただし、知識を客観的に示す手段として、次の資格が役立つ場面があります。
・計算力学技術者(熱流体力学分野):日本機械学会が認定する資格で、解析の知識と実務能力を示せる
・機械設計技術者試験:日本機械設計工業会が実施し、機械設計の幅広い基礎知識を証明できる
・技術士(機械部門):技術系の国家資格で、上級の技術者としての実力を示せる
・3次元CAD利用技術者試験:コンピュータ教育振興協会が実施し、CADの操作スキルを証明できる
資格は、実務経験の少ない方が基礎知識を示すときに特に役立ちます。一方で、経験者の選考では資格よりも担当した製品と成果が重視されやすい点も覚えておきましょう。
熱設計エンジニアの年収
熱設計エンジニアの年収は、担当する業界と、解析だけでなく対策設計まで担えるかによって差が出やすい職種です。 熱設計に特化した公的な年収統計は限られているため、関連する職種も含めて確認することをおすすめします。
需要面では、全職業の有効求人倍率は1.12倍です。
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」(2025年11月)
私たちが扱う求人を見ても、熱解析から対策の提案までを一貫して担当した経験がある方は、半導体や車載の分野で条件が高めに提示される傾向があります。年収を上げたい場合は、担当範囲を広げた経験を積むことが近道になります。
熱設計に限らず、機電系の職種研究や資格選びに役立つ情報をLINEでも配信しています。気になったときに読める形なので、情報収集の段階でもお気軽にどうぞ。
熱設計のやりがいと大変さ
熱設計は、製品の品質を根本から支える達成感のある仕事です。一方で、ほかの工程の影響を受けやすいという大変さもあります。
やりがい
・自分の対策で温度が下がり、製品の信頼性が上がる手応えを得られる
・解析と実測の結果が合ったときに、技術者としての成長を実感できる
・機構・回路・材料と幅広い知識が身につく
・小型化や高性能化など、製品の進化に直接貢献できる
大変さ
・設計の後半で発熱が判明し、短い期間で対策を求められることがある
・コスト・サイズ・騒音との板挟みになりやすい
・解析と実測が合わない原因を突き止めるのに時間がかかる
・複数の部署との調整が多い
ただし、「解析ばかりで設計の判断に関われない」「後工程で呼ばれて手戻りばかりになる」という悩みは、職種ではなく開発体制に原因があることも少なくありません。環境が理由であれば、構想段階から熱設計が関われる企業を選ぶ。仕事内容そのものが合わないなら、機構設計や評価など隣接する領域へ移る。 この切り分けが、後悔しない選択につながります。
熱設計エンジニアになるには
熱設計エンジニアを目指すルートは、主に次の4つです。
- 機械系・電気系の学部や大学院から、メーカーに新卒で入社する
- 機構設計・回路設計の経験を活かし、社内異動や転職で熱設計に移る
- 受託解析を行う会社で、熱流体解析の経験を積む
- 未経験の場合は、機構設計や評価職から入り、熱設計の業務に段階的に関わる
熱設計の専任職は、即戦力を求める求人が多い傾向にあります。そのため、未経験から直接目指すよりも、関連する設計職で経験を積んでから挑戦するルートが現実的です。
転職を考える方は、職務経歴書で成果を数値で示すことが大切です。次のように書き換えるだけで、伝わり方が大きく変わります。
・改善前:熱解析を担当
・改善後:車載用電子制御装置の筐体の熱流体解析を担当。放熱経路の見直しを提案し、主要部品の温度を約○℃下げて目標値以下に抑えた。解析と実測の誤差も○%以内に改善した。
○の部分には、ご自身の実績の数値を入れてください。部品の点数、対策の件数、開発期間の短縮など、規模がわかる数字を加えると説得力が増します。
熱設計へのキャリアチェンジを考え始めたら
市場価値を客観的に評価したうえで、納得のいく選択肢を一緒に考えます。今の悩みの相談だけでもかまいません。
まとめ
・熱設計とは、電子機器や機械の熱を逃がし、部品を許容温度内に収めるための設計
・仕事は「要件整理→熱解析→対策設計→試作評価→量産対応」の流れで進む
・解析ソフトの操作だけでなく、結果を設計の判断に落とし込む力が重視される
・年収は業界と担当範囲で差が出やすく、対策設計まで担える人材は評価されやすい傾向
・悩みの原因が職種か開発体制かを切り分けると、次のキャリアを選びやすくなる
よくある質問
熱設計は未経験でもなれますか?
専任の熱設計職に未経験から直接就くのは難しい傾向があります。ただし、機構設計や評価職から入り、熱に関わる業務を段階的に経験していくことは可能です。機械系・電気系の基礎知識があれば、学生や第二新卒でも挑戦の道は開かれています。
熱設計と熱解析の違いは何ですか?
熱解析は、シミュレーションで温度分布を予測する作業を指します。熱設計は、その結果をもとに放熱方法や部品配置を決め、製品に反映させるところまでを含む仕事です。熱解析は熱設計の一部と考えるとわかりやすいです。
熱設計に向いているのはどんな人ですか?
原因を論理的に突き詰めるのが好きな人や、複数の部署と調整しながら最適な案を探せる人に向いている傾向があります。ただし、これは傾向にすぎず、決めつける必要はありません。適性は実務経験を通じて伸ばすこともできます。
熱設計の将来性はありますか?
製品の小型化・高性能化や電動車の普及により、熱の問題を扱う機会は広がっています。機構と回路の両方を理解できる人材は、さまざまな分野で活躍の場を見つけやすいと考えられます。
機械系と電気系、どちらの出身が有利ですか?
伝熱工学や流体力学を学ぶ機械系の出身者が多い傾向にあります。ただし、電気系の出身者は部品の消費電力や回路の理解が強みになります。どちらの出身でも、足りない分野を補えば十分に活躍できます。
熱設計の仕事はAIでなくなりますか?
解析の自動化は進むと考えられますが、結果をどう判断し、コストや部品配置との兼ね合いで対策を決めるかは人の役割として残りやすい領域です。むしろ道具を使いこなし、設計判断の幅を広げられる人材の価値が高まると考えられます。
熱設計の仕事をもっと知りたい方に向けて、機電系の職種研究に役立つ情報をLINEで配信しています。まずは情報を受け取るところから始めてみてください。
この記事の執筆者

AIdeaCareerMedia編集部
主にIT・機電エンジニアに特化した転職事情に関する有益な情報を発信するメディアの編集部です。転職者であれば転職市場や選考での対策、企業の採用担当者様であればエンジニア人材の採トレンド等の「エンジニアに携わる転職・採用」の情報を提供します。
この記事の監修者

【機電部門統括責任者】キャリアアドバイザー 湯浅 空大
立命館大学卒業後、新卒で中堅アパレル企業へ入社。当社入社後は未経験圧倒的なスピードで実績を上げ、わずか2年半で機電部門統括責任者に就任。
圧倒的な求職者様目線を強みに、多くの機電エンジニアの転職成功。現在は、機電部門統括責任者として、勝てる組織づくりと後進育成に邁進。
